タイの食品市場への参入は、日本企業にとって大きなチャンスです。このブログ記事では、株式会社ジャパンフードカンパニー代表取締役の南口龍哉氏によるセミナーレジュメに基づき、食品会社経営者・経営陣が知っておくべきタイ市場の魅力、輸出のポイント、そして成功への道筋を解説します。
タイ市場の魅力と可能性
タイは、日本食にとって非常に有望な市場です。
日本食の一大消費地
バンコクを中心に、プーケットやチェンマイといった主要都市で日本食の人気が急上昇しています。「OMAKASE」や「IZAKAYA」といった日本語が現地で通じるほど、日本食文化が浸透しています。2020年と比較して、日本食レストランは166%も増加しています。
- 高い外食・中食の割合: 家庭での調理が少ないため、外食や中食の需要が高いのが特徴です。
- 富裕層の存在: バンコクには月収が高い上流層が20%以上存在し、彼らは高品質な日本食に高い関心を持っています。
- 高齢者向け商品の需要増: 今後、高齢者向け商品や介護商品の需要も増加すると予測されています。
- 円安の追い風: 円安は日本製品をタイバーツに対して相対的に安くし、価格競争力を高めています。
- 購買意欲の高さ: タイ人は貯蓄意識が低く、家族や特別な日には惜しみなく出費する傾向があります。
- 巨大な食品市場「タラート・タイ」: 1日約10万人が出入りし、約5億バーツが取引されるバンコク随一の食品市場です。
- 日本産フルーツが大人気: グルメ・マーケットSIAMでは、日本産食品の売上トップはフルーツで年間約2億円。タイ人は贈答用としてフルーツを贈ることが多いです。
東南アジアのハブとしてのタイ
タイは、急速な人口増加と経済成長を続ける東南アジア市場へのゲートウェイでもあります。
- ASEANの成長: 2030年までに、ASEANの総人口は7億人を突破し、デジタル経済規模は5,000億USDに達すると予測されています。ASEAN自由貿易圏による関税撤廃率95%達成も目前です。
タイ向け輸出のポイント:成功のための戦略
タイ市場で成功するためには、戦略的なアプローチが不可欠です。
現地バイヤーのニーズ
現地の価格イメージとしては、日本のカルディを例にとると、常温品は170〜200%、冷凍品は270%程度の価格で販売されています。現地バイヤーからは「ヴィーガン」「減塩」「OEM」「小ロット」「即配」「ラーメン」「スキルレス(Ready to Serve)」といったキーワードが頻繁に挙がります。
- 健康志向の高まり: 所得向上に伴い、健康への意識が高まっています。
- ストーリー性のある商品: 「ストーリーがあるもの」が求められています。
- 調理済み冷凍品の需要: 魚をさばく職人不足により、日本食に仕上げるための調理済み冷凍品の需要が高まっています(高級店以外)。
- 迅速な配送: 即日または翌日発送、リードタイム1〜2日が望ましいとされています。
海外営業の原則
「戦略的に大きく動く前に、小さな一歩でテストマーケティングを推奨」が絶対原則です。
- 社長直轄で推進: 新規事業である海外販路開拓は、社長直轄で遂行することが重要です。
- 直接営業が最強: 「結局、直接営業が最強」であり、日本国内と同様にきめ細やかなフォローが売上を左右します。
- テストマーケティングから大規模展示会へ: 「早く小さな一歩を踏み出しテストマーケを行い、市場感を掴んだ商品を持って大きな展示会に臨む」ことが成功への鍵です。
- 補助金・国策の活用: J-net21やJETROなど、国策として用意されている補助金や支援制度を積極的に活用しましょう。
タイ向け輸出特有のポイント
- わかりやすい資料作成: 「差別化ポイント・国内外展開例がわかりやすい資料」を準備しましょう。
- 動画やデモンストレーション: 「使い方や用途、完成料理の動画の準備や現場でのデモンストレーションは必須」です。
- 試食の実施: 「試食は絶対に行ってもらう」ことで、商品の魅力を直接伝えられます。
- タイ語翻訳: コーポレートサイトにタイ語翻訳を入れると、現地での信頼度が向上します。
- 競合があっても諦めない: 既に競合製品があっても、差別化ポイントを見つけてアプローチすればチャンスはあります。
- 良い通訳を見つける: 継続的なサポートを依頼できる良い通訳を見つけることがスムーズな進行につながります。
参入ステップと課題解決:成功へのロードマップ
タイ市場への参入は、計画的なステップと課題解決が重要です。
参入方法:「直接営業」が成功の鍵
「結論:直接営業をすべき」です。間接営業や間接貿易は、手軽に見えますが、成功するケースは稀です。
- 直接輸出のメリット: 手数料削減、リアルタイムな情報把握、関係構築、ノウハウ蓄積、価格決定権など。
- 最終的な理想: 「現地製造『Made with Japan』」を目指しましょう。
参入頓挫のケースと対策
- 「売れ待ち」スタンス: メーカー側が受け身では成功は難しいです。
- フォロー不足: 営業後のフォローを怠ると、せっかくの商談も実を結びません。
- 日本価格で諦める: タイでは高価になる可能性があるので、日本国内の価格だけで判断しないことが重要です。
直接営業の課題と解決策
- コスト: 単独での直接営業は初年度に最低でも500万円程度が必要です。現地法人設立の場合はさらに1,000万円〜1,500万円程度が必要です。
- 解決策: NEXI(日本貿易保険)を活用し、決済の不安を解消できます。
- ヒト(人材): 商談創出の壁や、社内に海外営業がいないという課題があります。
- 解決策: Meets Japanのようなサービスを活用しましょう。2024年7月にバンコクにオープンする食に特化した問屋街的なショッピングセンター「Phenix」内での商品PR、バイヤーマッチング、現地サンプル発送代行、伴走サポートが提供されます。
- 手続き: 関税やHSコードなど、具体的な準備ステップに関する不安があります。
- 解決策: 最初は苦労しますが、ノウハウを蓄積すれば内製化可能です。JETROや商工会議所、中小機構等に相談することも推奨されます。
メーカーが打開していく方法
「結論、直接営業しか、ない。いかに直接営業を小さく一歩踏み出すか。」
- PMF(プロダクトマーケットフィット)の推進: 現状の製品がそのまま売れることは稀です。「ニーズから逆算して、自社製品を適応させる」ことが重要です。
- 活用イメージの提供: 「使い方は絶対にイメージさせる、タイ語表記、動画など」を用意しましょう。
- ジャパンフードカンパニーの伴走支援: 「やったことが無い」という不安に対して、ジャパンフードカンパニーが伴走支援を提供しています。
- 補助金・助成金の活用: 小規模事業者持続化補助金(2025)など、多くの補助金や助成金が整備されています。商工会、中小機構、行政窓口に相談してみましょう。
まとめ
タイ市場への食品輸出は、十分な市場調査と計画的な「直接営業」が成功の鍵を握ります。テストマーケティングを通じてPMF(プロダクトマーケットフィット)を達成し、各種支援制度やサービスを賢く活用することで、タイ市場での成長を実現できるでしょう。